製造業のDXとは?重要視される理由や事例、今後の課題をわかりやすく解説
近年、製造業は生産コストの高騰や人手不足、業務の属人化などの深刻な課題に直面しており、DX(デジタルトランスフォーメーション)の導入で解決が期待されています。
しかし、DXの推進には技術的な障壁や、推進リソースの不足、現場からの抵抗などの課題も少なくありません。
本記事では、製造業がDXを進める理由や得られるメリット、成功した企業の事例などを解説します。
製造業のDXとは
DX(デジタルトランスフォーメーション)とは、デジタル技術を活用し、業務プロセスや製品、サービス、さらには企業文化までを抜本的に変革する取り組みです。
製造業のDXでは、設計や開発、生産、品質管理などの工程にAIやIoT、ビッグデータを取り入れ、生産性の向上やコスト削減、品質の安定化を目指します。
例えば、従来は目視で行っていた不良品の検出をAIが自動で行えば精度が向上し、人的ミスの削減が可能です。
また、IoTセンサーが設備の異常をリアルタイムで検出し、故障や生産停止のリスクを未然に防ぐことが期待できます。
製造業のDXは、需要の変動や顧客のニーズに迅速に対応できる柔軟な生産体制を構築でき、生産効率や競争力を高める重要な取り組みです。
製造業でDXが重要な理由
日本の製造業では、以下の課題が指摘されているため、解決する手段としてDXの推進が注目されています。
- 最新の工場がない
- 経営層と現場の連携が不十分
- サプライチェーンからの断絶リスク
- 人手不足
日本の製造業では最新のデジタル技術を活用したスマート工場がまだ十分に普及しておらず、生産性や品質の面で他国との差が開く可能性を指摘されています。
また、経営層と現場の連携が不十分なため、現場のニーズや不満が経営判断に反映されにくいです。
さらに、グローバル化によるサプライチェーンの複雑化により、社会情勢の変化による断絶やトラブルのリスクが増大しています。
他にも、日本では少子高齢化による人手不足が深刻化しており、生産現場に大きな影響をおよぼしている点も大きな課題です。
例えば、AIやIoTを活用したスマート工場が増えれば自動化やデータ連携が進み、経営層と現場が連携しやすい環境の実現が可能です。
さらに、サプライチェーン全体の可視化が実現すれば、社会情勢の変化に対応しやすくなり、生産の効率化や省人化が進めば人手不足が解消され、企業の競争力向上が期待できます。
製造業のDXによって得られるメリット
製造業のDXによって、業務の効率化や生産性の向上などを期待できます。DXを導入することで、どのような効果が得られるのかを把握しておくことが重要です。
以下、享受できる主なメリットを3つ紹介します。
生産効率の最適化や向上を期待できる
製造業でDXの導入が実現すれば、製品の設計や開発、生産プロセス全体の効率化を期待できます。
例えば、製品データや設計情報を一元管理できれば、関係部門間での情報共有がスムーズになり、手戻りやミスの削減につながります。
また、IoTやAIを活用して生産ラインの稼働状況をリアルタイムで監視し、業務プロセスを自動化できれば、人的作業の負担を軽減しつつ、ミスの少ない高品質な製造が可能です。
生産効率の最適化やコストの削減が実現すれば、企業全体の競争力強化につながるでしょう。
人手不足の解消
製造業は少子高齢化や労働人口の減少により、深刻な人手不足に直面しています。特に、熟練技術者の高齢化が進み、技能やノウハウの継承は大きな課題です。
DXの導入により、生産ラインの自動化やAIによる検品などが可能になれば、人手に頼っていた業務の効率化や省人化ができるため、労働力の不足を補うことが可能です。
また、熟練技術者の知見やノウハウをデジタルデータとして蓄積、共有できれば、特定の人材に依存しない体制を構築し、後継者不足の問題解消にもつながります。
新しいビジネスモデルの創出
DXの目的のひとつに、新たな価値観やビジネスモデルの創出があります。
AIやIoT、ビッグデータの活用によって生産効率が向上し、人手不足の問題が解消されれば、企業は余剰となったリソースをより付加価値の高い分野や業務に集中させることが可能です。
結果として、新しい製品やサービスの開発につながる可能性があるため、新たな価値を創出し競争力向上を目指せます。
製造業でDXに成功した事例
DX導入により生産性向上や業務効率化を実現した成功事例を参考に、製造業でのDX導入を成功させましょう。
金属製作会社の事例
大阪のある金属制作会社は、2008年のリーマンショックをきっかけに、「受注を待つ従来のビジネスモデルでは生き残れない」などの危機感から、加工プロセスのデータ化に着手しました。
加工機器の刃先にセンサーを取り付け、計測したデータの分析により、加工ソリューション事業の展開に成功しました。
さらに、社内にデジタル推進室を設置し、現場とITベンダーとの橋渡し役を担わせて、DX推進の障害となるコミュニケーションの壁を解消しています。
新規ビジネスの創出や組織全体で取り組む体制の構築を実現し、企業競争力を高めました。
工業会社の事例
情報通信機器の製造を中心に複数の工場を展開している工業会社では、DXを導入する前は、各工場が個別に最適化された生産や設計を行っていたため、共通部品であっても仕様が異なり、マスカスタマイゼーション(大量カスタマイズ)や工場間での融通が効かない課題を抱えていました。
DXを導入することで、複数の工場の設計部門や製造部門、品質保証部門をデジタル技術で連携させ、あたかもひとつの工場のように機能させることができました。
別々の工場にある部門がバーチャル空間上で統合され、生産状況の見える化によって工場間の負荷を調整できる体制を構築し、試作の効率化や量産へのスムーズな移行を可能としています。
各現場の人材と研究開発部門が連携することで、現場の課題を解決しDXの実現につながりました。
エレクトロニクス会社の事例
ICT分野を中心に幅広いソリューションを提供する総合エレクトロニクス会社では、開発から生産、品質保証までのプロセスを統合、効率化し、企業全体でのデジタルものづくりを支えるプラットフォームを推進しています。
リアルタイムでノウハウや情報を共有できる環境を整えた理由は、製品の多様化やカスタマイズ化が進み、開発スピードと品質の両立が求められる中で、設計者の高齢化による技術のサイロ化などに対応するためです。
DXのために複数の部門が連携し、社内全体でプラットフォームの重要性を理解し、ツールの開発と並行して運用ルールや組織間の情報共有文化を醸成したことでDXの推進につながりました。
単にシステムを導入しただけでなく、組織全体の意識改革を重視してDXに成功した事例です。
油圧装置のメンテナンス会社の事例
油圧装置のメンテナンス事業を主軸としたある中小企業は、産業構造の変化と顧客からの「油圧機械は今後なくなる」などの指摘を受け、事業転換を決断し、AIによる外観検査システムの開発を手掛ける「AI企業」へと進化を遂げました。
事業変革のために、油圧メンテナンスで得た利益の一部を外観検査システム事業に投資し、大学や海外の人材を積極的に取り込み、技術力を強化しDXを推進しました。
結果として、低価格なクラウドAI外観検査システムの開発に成功し、既存事業である油圧メンテナンスとAI技術を組み合わせた遠隔メンテナンスサービスを実現するなど、新規ビジネスの創出に成功しました。
精密金属プレス加工メーカーの事例
輸送用機械器具の製造を中心に、金属プレス加工と金型技術を強みとする中堅製造業企業では、高い技術力を誇っていましたが、「自動車業界の大変革期に対応する必要がある」と危機感を抱いたためDXに取り組みました。
製造現場を熟知したメンバーとITエンジニアを集めた「ブリッジエンジニア」を結成し、現場のトラブルや課題を聞き取り、ITを使って解決できるシステムの設計を行うことで、DXの推進と定着を実現しました。
また、全社に向けてDXの目的や理念を繰り返し伝えることで、従業員全体の意識が変革しDXの実現に成功しました。
製造業のDX実現の課題
製造業では課題解決のためにDXを導入するケースが増えていますが、DXの実現には課題もあるため注意しましょう。
レガシーシステムによるコストの増大
経済産業省が発表した「DXレポート ~ITシステム「2025年の崖」克服とDXの本格的な展開~」によれば、日本企業の約8割が老朽化や複雑化したレガシーシステムを利用しているとされています※。
レガシーシステムはブラックボックス化が進んでいるため、DXの推進を妨げる大きな障壁です。
しかし、レガシーシステムを最新の基幹システムへ移行するには、初期費用や運用コストが高額になる傾向が見られます。さらに、最新の基幹システムの保守や運用が可能な専門的なスキルを持つ人材の確保も不可欠で、人的リソースの負担も課題のひとつです。
レガシーシステムによるコストの増大はDXの大きな課題ですが、政府が提供する補助金や助成金の活用を視野に入れ、費用対効果を見極めながらDXの推進計画を策定しましょう。
※出典:経済産業省「DXレポート ~ITシステム「2025年の崖」克服とDXの本格的な展開~」
現場とのギャップ
DXの推進において、経営層と現場の間にギャップが生じるケースは少なくありません。
現場の従業員は、DXの必要性を理解しながらも、新しいシステム導入による業務負担や運用方法の変化に対する不安を抱えやすいです。特に、慣れ親しんだ業務フローの変更への抵抗は大きく、DXの目的や理念が現場まで十分に共有されていないと、導入を妨げる場合があります。
現場とのギャップや不安、抵抗などを解消するためには、現場で働く従業員に対する実践的なトレーニングやワークショップの実施が効果的です。
また、現場の意見を積極的に取り入れ、DX推進の過程で現場の主体性を尊重できれば、スムーズな導入と定着を期待できるでしょう。
経営層の理解不足
DXを推進する上で、経営層の理解と積極的な関与は不可欠です。
しかし、DXの重要性や目的が経営層に十分浸透していない場合、具体的な戦略が描けず、必要な人材やツールの確保が後回しになり、プロジェクトが頓挫するケースがあります。
現場の努力だけではDXは成功せず、企業全体を巻き込む強いリーダーシップと明確なビジョンが必要です。そのため、経営層がDXによる経営の将来像を描き、目指す方向性を全社で共有しましょう。
また、必要な予算の確保や専門チームの設置を進め、組織全体で取り組む体制を整えることで、DXの成功率は高まります。
製造業でDXの情報を収集するなら「現場DX EXPO」へ
RX Japanが主催する「Japan DX Week」の「現場DX EXPO」では、DXに関するツールやサービスが多数展示されます。
DXに関するツールやサービスを詳しく知りたい、あるいは相談したい企業の場合は、ご来場の上、最新情報を収集しましょう。
また、DXに関するツールやサービスを提供している企業の場合は、新規顧客開拓のために出展を検討してはいかがでしょうか。
下表に、開催地域・開催場所・日程をまとめました。
製造業が抱える課題の解決にDXがおすすめ!
製造業は人手不足やサプライチェーンからの断絶リスクなど、多くの課題を抱えており、DXの推進は有効な解決策となる可能性があります。
AIやIoTの導入で業務の自動化や省人化が進めば、新たなビジネスモデルの構築や付加価値の高いサービスの提供にも踏み出しやすくなり、企業の競争力を高めることも可能です。
DXは、単なる業務効率化の枠を超え、製造業の未来を切り開く鍵となるので、導入を検討しましょう。
RX Japanが主催する「Japan DX Week」内の「現場DX EXPO」では、DXに関するツールやサービスが多数展示されます。
DXに関するツールやサービスを詳しく知りたい、あるいは相談したい企業の場合は、ご来場の上、最新情報を収集しましょう。また、DXに関するツールやサービスを提供している企業の場合は、新規顧客開拓のために出展を検討してはいかがでしょうか。
▶監修:持木健太 氏
プロフィール:TOMAコンサルタンツグループ株式会社取締役、中小企業診断士。
DX推進の総責任者として、テレワーク環境構築・ペーパーレス化・AI活用支援・ビジネスモデルの再構築などで活躍中。企業の労働生産性向上や付加価値向上を目指して、中小企業から上場企業まで幅広く対応している。